高橋洋(たかはしひろし)氏:
中田秀夫監督と共に『リング』『女優霊』でホラーブームを起こす。今回の『巷説百物語』が初めてのアニメ作品。
代表作:
映画『リング』『リング0』『リング2』『女優霊』『新生 トイレの花子さん』『発狂する唇』(脚本)『呪怨』シリーズ(監修)など。

★京極作品の仕事の依頼が来たときのお気持ちをお聞かせ下さい。
今回仕事のタイミングも合ったし、アニメは一度知っておきたい世界だったので、是非やりましょう!ということになりました。とても貴重な経験になりました。

★初めてアニメのシナリオを書かれてみてどうでしたか?
実写とボリュームが違うんですよね。台本でいうと多分10Pはアニメの方がたくさん入るんです。つまり実写映画でいうと、トーキー映画というよりはサイレント映画(無声映画)に近いくらいの情報がぶち込める。同じ尺の中にもっと凝縮された情報を入れられるということは映画の原点に近いんじゃないかと思います。トーキー映画だと我々が現実に体験している時間の長さに縛られますが、アニメはそこを飛ばして、より嘘を構築していくという作業なので面白かったです。

★京極先生の作品は以前から読まれていましたか?

『姑獲鳥の夏』は出てすぐに読みました。作者について何も分からなかった時期で、写真も無く、面白い人が出てきたという感じでした。その後徐々に正体が分かっていきましたが、最初出会ったときは驚きの印象が強かったです。京極先生の作品てウンチクが面白い。読んでいると、この人面白いこと考えているなって判りますね。巷説もそういう印象が強かったです。


★監督やプロデューサーからはどんな注文がきましたか?
はじめ大石プロデューサーから「巷説百物語は妖怪の話だから、恐くして欲しい」と言われました。そこでみんなで、恐いということについて何度も話し合った感じがします。結局、一人一人の人間の業の部分が出ればいいんじゃないかと考えました。

★アニメで恐さを出す為には?

まず、実写でやるような手法をアニメでやっても多分恐くならないと思う。
アニメで心霊写真出しても恐くないですよね?実写だと人形を写すだけで恐いんです。アニメだと人形は書いた絵だから恐くないし、そういう手は使えない。幽霊的・超自然的な恐さを描いて、アナザーワールドに触れたような恐さではなくて、京極先生は「最後は人間のやったことなんだ。この世に不思議なものは何も無い」という考えだから、人間がやらかしてしまうことのおぞましさを描くドラマなんだなと感じとってやっています。


★高橋さんの作品でいうと『蛇の道』や『発狂する唇』とか?

そうですね。グランギニョール、いわゆる残酷なメロドラマは元々好きなんです。今回はそういう意味では、時代劇という舞台・題材で思いっきりフィクション系が強かった。普通実写だとキツイようなネタが出来たのも楽しかったです。


★時代劇はやったことはあるのですか?

時代劇は、『東方見聞録』という映画をやりました。あと、面白いと思ったのが台詞について。フィクショナルな時代劇だからこそ言えるのかもしれないけど、生身の人間が絶対に言わないことをあえてやるのが、アニメーションでは当たり前だったこと。声優さんは、普通そんなこと言ったらおかしいものをちゃんと表現に置き換えるからすごいと思う。アニメで言っている台詞を実写の台詞で言ったら相当キツイと思います。20〜30年前のドラマなら、かなりの嘘と台詞を生身の人間が言えたんですけど、今それを言うとみんなプッっと笑ってしまう。なんで嘘の台詞を言うと人は笑っちゃうんだろう。どうして自然さを求めるのか判りませんが、アニメはまだまだ嘘がつけるからいいな。


★イメージボードはご覧になってから書かれましたか?

僕が入った時は、メインキャラの設定は全部出来ていました。それが見えている、見えていないだと大きく違います。逆に昔、有名なアニメを実写にしようとしたことがあったんですが、結局頓挫しました。そのときにはアニメや漫画の先行イメージがものすごく頭にこびり付いてて、実写なんだからと何度言い聞かせても、その声じゃない、顔じゃないって、頭に住み付いて絵が動くので、すごく大変でした。


★書いているときも、ある程度イメージしながら書いているんですよね。

やっぱり無いと前に進まないです。今回キャラがちゃんと見えていたのは大きいし、別の何かが入ってくると、それで動くんですよ。


★1番動かしやすかったキャラは?

僕はちゃんとそんなに動かしていないんですけど、おぎんは1番つかみやすかった。あと、長耳かな。この3人組ってほとんどルパンだよね。ルパンは僕らの世代はアニメの主人公として黄金の組み合わせ。この組み合わせが1番面白いんですよね。そういう点ではこの3人組を描くときは妙に楽しかったです。特におぎんは、『妖怪人間』の「ベム」の声がずっと聞こえていました。


★百介についてはいかがですか?

百介はナビゲーターなんです。こういう本質的には何も無い人、何も背負ってない空白の人間が主人公であるのもアニメならではという感じがします。実写は、どうしても主人公に何かドラマや背景がないとまずいんです。


★高橋さんは霊感がありますか?

ないです! 恐がりですし、いっぱい書いてて嫌なこと想像をしちゃうじゃないですか。だから、なるべく夜書かないようにしています。


★アニメでもリアルを追求した方が面白くなるんですかね?

どうなんだろう。90年代テイストのホラーだと、固まってしまう反応がリアルなんだよね。それも多用されていくと当たり前になってしまう。実写はやっぱり、出たものの恐さよりも見る人の反応だってよく言われる。見えたものがいかに恐くて、下手に悲鳴を上げずに固まるか。リアクションを見せていくのがやっぱり重要。アニメでリアクションは結構難しいかもしれないけど、ある種記号化された表現がある。だからこそ10P分余計に盛り込める。妙な芝居をしたりしている尺はかからないから、意味はポンと伝わって次のカットにいけます。


★見所を教えて下さい。

弾正や白菊といった悪のキャラクターがどんな風に楽しめるかということなんじゃないのかな?忌わしい出来事の背後にいる黒幕が少しずつ分かっていくという伝統的なゴシックホラーのような、そういう物語構造を持ったお話で書きました。昔から「悪役が倒されることが魅力的である」というのが実写もアニメも実は映画の隠れたテーマで、物語上は善人が勝つのですが、実はみんな悪が倒れるところを見て楽しんで喜んで観ている。最高の見せ場は悪が倒れるところである。それは悪を滅ぼしたから素晴らしいというのではなくて、自分の業も一緒に浄化される、そういうカタルシスなんだと思います。子供の頃見たものも、やっぱり悪が倒れるところを強烈に憶えています。もっとも「恐怖」と同様、「悪」というのも難しいんです。人間の行為を通じて、人間以上の「悪」を感じさせるというのは。人間は行為としてはサドが「ソドム120日」に書いた以上の悪は為し得ないんですね。そこが限界で。あくまで人間でありながら「悪」を感じさせる。レクター博士はそこができていると思うんです。今回はそこが一番難しかったですね。



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