チーフディレクター・出崎統氏(文中敬称略)

――「ガンバ」は最初から全26話の放送予定で、旅をして、ノロイをやっつけて終わるという話だったんですか。

出崎)
 間違いないです。それはノロイをやっつけるというのが旅の目的で、僕にとっては旅が目的だったんですけどね。

――ネズミのデフォルメについてはどう考えていましたか。

出崎)
 景色とか情景だとか、描き方によって、その世界の位置が変わってくるんです。
 ドブネズミなんて、人間が見たらネズミ色のチョロチョロとした存在だけど、ひょっとしたらガンバ達のような存在がいるかもしれないという思いを、見てる人に渡そうよ、という感覚はありました。それで、ネズミはああいう絵柄で描いておいて、人間達は少しリアルにして、モノクロで描こうよ、と。
 小ささのリアリティ、つまり小さなものが感じる、大きなものに圧倒される迫力を出そう、と思っていました。ノロイは大きく描かれてましたけど、ネズミとの比較で大きいだけであって、本当は人間から見たらイタチは小さいですよね。ネズミ達の目線だからであって、そうじゃなきゃ成立しない話です。

――ガンバ達って、人間でいうといくつぐらいの年齢だと思われますか?

出崎)
 ガンバは、少年だよね、やっぱり。中学生から高校ぐらいかな。イタズラ坊主でそこそこ力があって。元気はあるけど、世間知らずですね。ボーボは同じ歳でね。友達で。イカサマがひょっとしたら(ガンバ達より)ひとつ歳下かも知れないですけど、ずごいマセてる奴。

――あっ、そうなんですか。

出崎)
 上かも知れないけど、年齢不詳。ガンバは結構、正義感強くて、(イタズラ等をしても)どこかでハッと我に返って、「これは、マズイよな」と思ったりする奴だけど、イカサマは「世の中なんて、そんなモンじゃねえよ」って、パチンコやったりタバコ吸ったりしてるような、「親もいねえし、俺はどうせ捨て子だよ」みたいな。そういう子っていうのは、近い年齢でもすごく憧れちゃうんだよね。「コイツすげえな、大人だな」なんて思ったりするわけですよ。悲しいかな、人生のシニカルな部分を何かで知ってて、ヒネてますよね。だけど、イカサマからガンバを見たら、「コイツ素直でいいなあ、俺もこういう風になってりゃなあ」と憧れちゃうワケですよ。それはひた隠しに隠しながら、「お前、こんなの知らねーだろ」とか、大人ぶった事やって、それでエバってるみたいな。「友達なんてうるさいだけだよ」なんて言ってる奴が、本当は友達を頼っている。そういう奴です。ガンバはガンバで「アイツは人の事は気にしねえからな」とか言いながら、でも助けてあげたりとかね。

――ヨイショとガクシャは相当上? 人間で言うと、もう三十くらい?

出崎)
 そうでしょうね。ヨイショはそれでも、わんぱく坊主がそのまま大人になったような人で、ガクシャはガクシャで実際の能力はどうか知らないけど、勉強を一生懸命やって、「力はねえけど、頭は良いんだぞ」って言って、生き抜いてきた人でね。やっている事は、相当間違ってんだけど(笑)、そこにプライドを持って生きてきた人。
 シジンはシジンで、「放浪が一番」みたいな、「あるがままに生きればいいんですよ」という、要は新宿のホームレスみたいな人。サラリーマンを五、六年やって、世の中が嫌になって、好きな詩だけ詠んで暮らしていよう、お酒も好きだし、みたいなね。初老じゃなくて中年ぐらい。世の中の事を一応知り尽くしているけど、時々顔が紅くなったりね(笑)。そういう可愛らしさも、ちょっと持ってると思いますけどね。
 ヨイショは正義感がすごく強くて、荒くれでね、たぶん失敗ばっかりしてる落ちこぼれでしょうね。正義感強いし、喧嘩も強いし、曲がった事はやっぱり許せねえし、いい人ですよ。積荷を盗んで売ってたり、荷物を頼まれて船に乗せて運んだりしてね(笑)。港の辺りの博打場で博打を打ってたりする。そういう船乗りでしょ。「海はまかしとけ!」って言ってて、海には慣れてる。普通、動物はああいうものには乗らないでしょ。ところが、貨物船に住み着いて、七つの海を渡っているわけですよ。そこに誇りがあるわけです。ガンバが船酔いなんかすると「バカじゃないの、お前」とかって。

――「ガンバ」では、最後に忠太のお姉さんの潮路さんが出てくるまで、途中でどこに行ってもオスばっかり出て来るんです。あまり女性が出てこないですよね。潮路さんだけがヒロインでそれ以外は出さない。そんな考えがあったんですか。

出崎)
 やっぱりガンバ達を描く事の方が先でしたから。ガンバ達にとって女性というのは、まだ未知のものだしね。恋なんかもしたりするけど、それはそれでかりそめの恋なわけですよ。たぶん、ヨイショは女に弱い。ガクシャはそばに行っただけで赤くなって固まっちゃうとかね。イカサマは「なんだ、女なんて」って言ってるんじゃないの、バカにしたりなんかして。

――表面的に女好きな人はいないわけですね、あの中には。

出崎)
 そうそう、カッコつけてね。みんな、海へ出ていく男達だから、一応は。見てないところではね、何をするかわからないけれど。人前ではやっぱり気取ったり、「俺は男だよ」というところが前に出ちゃうワケです。

チーフディレクター・出崎統氏(文中敬称略)

――シリーズ中で印象に残っているエピソードはなんでしょう?

出崎)
 中間達がカラス岳を越える時、リーダーを替わりばんこにやりながら降りていく話がありますよね。海を見たいとか、飛行機雲見たりとか、山小屋の話とか、それなりに思い込めてやった部分は他にもあるんですけど。連中がリーダーごっこをしながら行く話は、自分でも意識してなかったんだけど、「これをやるために、「ガンバ」をやったのかもしれないな、やってて良かったな」と思いましたよね。
 リーダーが替わりながらね、「リーダーとは何なんだ」と追っていく時に、「これ、ひょっとしてテーマだったんだなあ」という事を、実感しましたね。「本当の仲間って何なんだろう」って。仲間というのは、きれい事でやっちゃえずに、お互いをよく知って、素直に最低条件認め合っていないと、実際の話、成立しないんだと。欠点をカバーするとかいう事じゃなくて、その人がどういう人かという事を周りが理解して、ダメならダメと言ってあげる。でもそれは「ダメ」と言えるだけの愛情とお互いに信頼しあってるんだよというコンセンサスがないと言えないでしょ。喧嘩になってもの別れしちゃうわけです。喧嘩はするけども、「でも、コイツ好きだな」と思うところの基本のコンセンサスって何だろうって。それがあれば、リーダーなんて要らないんだと。その時の役割でみんなが譲っていけばいいんだと。それは自然にやればいい事であって、基本はお互いに、その人の欠点も長所も認め合って、わかり合って、次にコイツが何をするかもわからないんだけど、何をしても「コイツは俺の友だちだぞ」という思いをね、しっかり持たないと。
 今のいじめとは全く逆の発想なんだけども、何事も認め合う土台が出来た仲間、チームは強いんじゃないかと。個人個人が生きてくると言うのかな。僕は独りよがりの人間だから、なかなか人と協調できないんだけど、自分でも「ああ、そうなんだな、そういう事になったら確かにいいよなあ」と思いましたね。自分にとってはすごく深い意味があったんですよ。この仕事をやってて良かったな、と思った話ですよね。

構成執筆 スタジオ雄 小黒祐一郎

「ガンバの冒険」LD-BOXコンプリートコレクションの特典物
「メイキング・オブ・ガンバの冒険」より抜粋
東芝EMI(株)


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